
カザンリクを選んだのは、トレリス仕立ての長尺だったから。
そのまま植えれば、ラティスに枝を這わすことができる。
一緒に買ったバタースコッチと、ラティスの左右に這わせようとおもった。
だが、カザンリクというバラについては、どんな花が咲いて、どんな香りがするのか、何ひとつ知らなかった。
家に帰り、改めて鉢の様子を確認してみる。
V字型のトレリスに、枝が長いハート形を描くように仕立てられている。
今にも咲きそうな位に膨らんだツボミがいくつも付いている。
この完成度に手を入れるのは、かなり勇気がいる。
暫く逡巡したが、逸る気持ちを押さえることはできなかった。
鉢から根を引き出し、せっかく綺麗に整えてあった枝を、トレリスから外す。
細かなトゲが絡み合い、枝がスパゲッティ状になる。
それをほどいて、ラティスに縛りつける。
作業が終わって、出来栄えを確認する。
ラティスには、枝が折れ、ツボミの半数が落ちてしまった、無惨なカザンリクの姿があった。
さすがに、これには、しょんぼりとなった。
豚に真珠とは、このことだとおもった。
翌朝になり、恐る恐るカザンリクの様子を見にゆく。
すると、輝く朝日の中に二~三輪、ローズビンクの花が咲いているではないか!
もっと良く見てみようと、傍に近寄ってゆく。
すると、得も言われぬ、芳しい香りに取り囲まれた。
生まれて初めて体験した、ダマスクローズの香り。
これこそが、バラの虜となった瞬間だった。。

Kazanlik
作者:野生種、系統:ダマスク、作年:1612年以前、産地:中近東、色:濃ピンク、開花性:一季性、香:強香、花形:八重咲、樹形:半ツル性、
コメントをお書きください