カザンリクその後


カザンリクは、極めて生命力が旺盛である。

枝が長く伸びて、チュウレンバチの幼虫に葉っぱを食べられても、逞しく成長する。

5月上旬に花が終わると、あとは旺盛な枝との戦いになる。

原種性なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、思い抱いていたバラのイメージとは異なる強さがあった。

 

それに対して、ラティスの右側に植えたバタースコッチの方は、見るからにバラらしい感じがした。

 

ところが、夏の最中になるとなんだか元気がなくなり、みるみる弱々しい様子に変わってしまい、とうとう秋になると枯れてしまった。

バラゾウムシが原因だった。

後にも先にも、バラゾウムシを見たのは、このときだけである。
その後、バラゾウムシは、バタースコッチとともに全く姿を消した。

それに対して、カザンリクは、秋になると2mにも届くまで枝を伸ばしていた。

 

枝の暴走は、周りの状況からして、放置しておける限度を越えいた。

 

したがい、元の長さより少し長いところまで、切り戻すことにした。

 

ところが、これがまずかった。

 

ダマスク系オールドローズの場合、「一年間に伸びた枝に翌年花を咲かせる」、という原則を知らなかったからだ。

 

花が付く枝まで切ってしまったので、翌年の春は、ほとんど花が咲かなかった。

 

春に花をつけない、一季咲きのバラほど、ガッカリするものはない。

年を重ねるたびに、大型のブッシュに育てるのがふさわしいカザンリクは、広い庭で自由に枝を伸ばすのが似合っている、との思いが強まっていた。

バラを育てる楽しさを教えてくれたカザンリクであったが、こうして2016年、バラの栽培に合わせて庭の改修を行ったのとき、我が家での役割は終了した。

 

現在、カザンリクの後地には、以前からどうしても欲しかった、ジュベリーセレブレーションが収まっている。

 

併せて迎えることになった、ハーロウカーやチャールズ・レニ・マッキントシュを見ると、カザンリクのことを思い出す。

 

色合いや雰囲気に、似ているところがあるからだ。

 

しかし、どちらも、あのスパイシーで濃厚なカザンリクの香りには及ばない。