ブレスのこと


歌の基本は「ブレス」である。

合唱を始めた頃から、ミミタコになるほど言われ続けてきた。


そして、声楽を少し噛るようになった今、やはり「ブレス」は歌うことの基本だと再認識している。

合唱団に入って最初に教えられるのが「腹式呼吸」だと思う。

 

「胸ではなく、お腹で息を吸え」と言われる。

 

これが良く分からない。

 

どうやっても、息は胸に入るのであって、お腹に入ることはない。

 

だが、暫くすると、「腹式とは呼吸をするときの筋肉の使い方なんだ」、と理解するようになる。


しかし、それだけでは、安心はできない。

 

その先には、もっと難解なことが待っているからだ。

丹田に重心を落とせとか、腰周りの背中の方に息を入れろとか

合唱を経験した人であれば、大体似たようなことが、少なからずあったと思う。
そもそもであるが、腹式呼吸とはどうすることが正解なのか?

そして、それを実践することが、どうして歌を上手に歌えることに繋がるのか?

自分のことを振り返っても、この謎に明確な答えを得ないまま、自分が正しいと信じる「腹式呼吸」を続けてきた

それでは、改めて「ブレスとはなんなのだろう」と考えてみる。

仮に呼吸とブレスがイコールだとしたら、肺に入ってきた息を、口から吐き出すための一連の動作となるだろう。

この場合、横隔膜の動きには、全く意識はない。


ところが、呼吸とブレスはイコールではない。


ブレスには、呼吸に対してさらに以下の要素が加わるからだ。

◇息の流れを持続させて、コンスタントに声帯を震わせる。

◇体内の共鳴体を響かせることにより、声を拡声させて、聞き手の耳に届ける。

 

そして、これらのことを実施するためには、横隔膜のコントロールによる息の流れの調整が求められる。

「息の支え」 も長年の謎の一つであったが、「横隔膜で息をコントロールできる筋肉の使い方」と考えればガテンかゆく。

 

それでは、横隔膜をコントロールしてコンスタントな息の流れをつくるためには、どのような筋肉の使い方をすれば良いのだろうか。


結論から言うと、息を吐くとき腰骨のすぐ上の筋肉(脇腹の下)を、外に張る方向に使うことである。

この動きは、前腹筋をへこませて息を絞り出していた従来のやり方とは、真逆の方向感だとおもう。

脇腹の筋肉の張り出しによって、横隔膜の緊張を維持するような動きだ。

昨年から、合唱の指揮でお世話になっている大田務先生は、「ベルトを外しても、ズボンが落ちないように、腹囲の緊張を維持したブレス」と指導されている。


これは、脇腹の筋肉を外に押し出す使い方にかなり近いと感じている。


同じく、合唱の活動で発声の指導を受けたメゾソプラノ小川明子さんは、「お腹の上の筋肉を使ったブレスと、下の筋肉を使ったブレスがある」とおっしゃっていた。

残念ながら、この意味は未だに良く消化できていない。

このように、ブレスの方法論は様々である。

個々が達成したレベルによって、違いが出るからだろう。

なんだか、仏教が説くところの「悟り」のようだ。

言い換えれば、一生を賭けて追い求めるような、歌をうたうものにとっての「永遠のテーマ」みたいな、ものなのだろう。

掲載画像:ヴェネチア下町風景