
歌うときは、声帯から直接声を出してはいけない。
胸部や頭部に「共鳴」させろ、といわれる。
だけど、それを実践するのはそう簡単ではない。
才能のある人は、誰に教わるともなく、自然に響いた声を出せる。
そういう人には、共鳴を使って歌うことは、何の苦労もいらないようだ。
時として、話し声は素晴らしい響きだけど、歌にはあまり活かせていない人もいる。
凡人からすれば、何とももったいない限りだ。
凡人は凡人なりに、共鳴を養う練習をしなければならない。

合唱では、ハミングの練習をよくする。
なぜかと言えば、鼻腔で共鳴する場所を、覚醒させてくれるからだ。
実は、ハミングには、次の3種があると教えられる。
<ハミング、ハニング、NG>
これらの、何が違うかというと、そんなに違いはない。
聴いてる方には、恐らく区別がつかない程度の差である。
だけど、これらを区別することは、共鳴の練習としては、とても効果あるとされてきた。
Mで「フンフン」するのが、ハミング。
Nでやるのが、ハニング。
NGは、鼻腔の中で「ウグウグ」やる。
ハミングとハニングは、口を閉じるか、開けて前歯の後ろに舌をつけるかの違い。
今おもえば、どれをやっても、効果にそんなに大差はない気がする。

ハミングのあとがどうなるかと言えば、鼻腔共鳴を実声に生かす練習をする。
典型的なものは、「ミー」の連呼。
ハミングでつかんだ共鳴腔をめがけて、「ミーミーミー」と繰り返す。
知らない人から見れば、大勢でミンミンゼミの真似をしている、ヘンな集団に映ることだろう。
ミンミンゼミは、あの小さな体で、数百メートル先まで、鳴き声を飛ばすことができる。
ミンミンに限らず、セミ類は、捕まえるとかなりうるさい。
お腹に共鳴室という、空気のはいった共鳴専門の器官をもっているからだ。

共鳴室をもっていない人間が、セミのレベルに到達することはむずかしい。
ところが、真似をしているうちに、だんだん共鳴させるコツを掴むことができるのも事実である。
「ミ」が終わったら、「マ、メ、モ、ム」をやって、すべての母音が響くように、毎々練習を繰り返してゆく。

だけど、やみくもに共鳴の練習だけをしていればいいわけではない。
声楽を始めてから今日にいたるまで、絶えず言われていること。
それは、「自分の楽器を作りなさい」、である。
すなわち、自らの身体を、歌うのにふさわしい楽器に改造すること。
これを、自分なりに解釈すれば、歌う姿勢を作ることと、もうひとつは、共鳴する顔を作ること。
セミの共鳴室に似た器官を、体内に作り出すようなものだ。
先天的に共鳴させる才能がないものは、共鳴する構造を後天的に作り出さなければならない。
顔が悪いのだから、「努力するしか方法がない」、ということ。
ソプラノやテナーは、特に高音を綺麗に処理することが求められる。
その為に必要なのは、高音が響く顔を作ること。
どんな顔をつくればよいのかというと、口腔内や鼻腔などをつかって、高音を共鳴させるのに適した形を作ること。
もっと詳しく言えば、両の頬骨を上げることによって、鼻の後から前歯にかけてより大きな共鳴腔を発生させることができ、そこにブレスを当てることによって、眉間から頭部全体を共鳴させる。
天性の才能があるひとは、これが自然にできているらしい。
すごい。

掲載画像:ヴェネチアゴンドラほか
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