
スペインには、看板に”Asador”(アサドール)、と書かれたレストランがある。
この、Asadorとはなにか?
「焼き肉屋」みたいなもの、と説明する人もいるけど、ただしくは「肉料理屋」だとおもう。

牛をまるごと一頭仕入れて、大きな網や、暖炉で焼いたりする。
闘牛場から、そのまま引きづってくる、という話もあるけど、真偽のほどは定かでない。
店によっては、ストックルームのガラス越しに、大きな肉の塊が吊るしてあるのが見えたりする。
調理方法は、基本焼くだけ。
だけど、岩塩の振り加減を含めて、その焼き上がりは絶妙。
同じ牛肉なのに、どうしてこんなに違うのか、とおもうほど。
メニューの中身も、普通のレストランとは違っていて、肉の各種部位が書かれていたりする。
オーダーするときも、甲状腺一皿とか、アキレス腱一人前とか。
日本の焼肉にも、いろいろな部位があるけど、この品揃えにはかなわない。

ここに紹介するのが、マドリードの、”Donostiarra”、というお店。
肉料理を中心として、ひろくカステジャーナ料理が楽しめる。
もしかしたら、とおもい、Donostiarraをネットで検索してみる。
すると、日本語のHPまである!
これには、びっくり。
以下に、最後に行った、2004年のときのメニューを紹介しようとおもう。
10年以上も前のことを、思い出い思い出し書くので、間違った説明があった場合は、ご容赦のほど。
◇コゴージョとカツオのサラダ
◇ピーマンのピキージョ
◇自家製フォアグラ(だったと思う)のペースト
◇旬のキノコのソテー(このときは、ヒラタケのようなキノコ)
◇ハモン・ハブーゴ
◇陶板焼きステーキ

コゴージョは、レタスに近い種類の野菜。
シャキシャキした歯ざわりは、日本人の好みに良くあっている。
鶏肉に見えるけど、トッピングはカツオをボイルしたもの。
ツナ缶の味に、ほぼ同じ。
たっぷりのオリーブオイルと、ビネガーと塩で味付けしてあった。

”Pimiento del piquillo”。
最近は、日本でも缶詰を売っているピーマンのピキージョ。
ナバラで採れる赤ピーマンを黒焼きにして、皮と種をとったもの。
いろいろ調理方法があるらしいけど、Donostiarraの前菜では、ニンニクオリーブをかけてた、シンプルなもの。
イタリア料理にある、パプリカの黒焼きに近い。

自家製のフォアグラ(だったとおもう)のペースト。
ワインのお供に最高。

旬のキノコ。
スペイン語では、キノコ類をセタと呼ぶのだけれど、これが何という種類なのは不明。
オイガー(ウェイター)の説明では、直径が30cm にもなる、大型のヒラタケのようなキノコだったと記憶している。
肉厚で、噛みごたえ十分、ジューシーな風味。
もう一度食べたいけど、名前が正確にわからないので残念。

そして、世界一おいしいとおもう、ハモン・イベリコ(イベリア半島の黒豚で作った生ハム)。
このお店は、ハモン・イベリコの中でも、ハブーゴ産のもの。
呼び方も、ハモン・ハブーゴ。
どんぐりの実を食べさせたイベリコ豚からつくる、最高級品質。
固い嚙みごたえから、赤身のうま味と白身の脂が交わり、口いっぱいにと広がってくる。
ゴクンと飲み込めば、おいしさが突き抜けて、脳天を刺激される。
思わず、赤ワインと口にして、至福のときを堪能。
一度食べたら、絶対に、忘れない。
同じスペイン生ハムでも、ハモン・セラーノというのもある。
こちらのほうが、一般的。
これは、イベリコ豚とは違う白豚を使ったもの。
イベリコは、色が濃くて固い感じがするのに対して、セラーノは色が白っぽく、脂が浮いて見えるので区別がつく。
スペインで食べると、どちらでも、かなりおいしい。

最近、日本でも、ハモンを出すお店が増えている。
それも、一本をまるまる輸入して、その場で削って出す本格的なもの。
だけど、どうしても、本場の味には及ばない。
一つは、気候のせいだとおもっている。
湿度の高い、日本での販売を考えて、もしかしたら、防腐剤処理をしているのでは、との疑いをもっている。
スペインのバルでは、何本ものハモンが、天井の梁にぶら下がっていて、お店で、さらに熟成を進ませている。
ハモンの下に、傘を逆さまにしたようなものを差し込んでいるのは、中から染み出てきた脂が垂れて、床や顧客の頭部を汚すのを防ぐためとか。
日本のお店で同様のことをしたら、数日のうちに、せっかくのハモンが腐敗してしまうのに違いない。

そして、メインディッシュは牛肉の陶板焼き。
この量で、二人前(2kgはあったとおもう)。
オーダーが二人前からなので、この量を頼むしかない。
これだけ見たら、ただのレアステーキ。
どこが陶板焼きかというと、高温に熱した陶器の皿がサービスされ、その上で自分の好きな焼き加減まで加熱して食べるから。

自分の好きな量を熱い皿の上にとり、焼け加減をみながら、食べる。
日本の焼き肉に、少し似ている。
お皿の熱が冷めたら、熱いのに取り替えてくれる。
赤身肉なので、結構な枚数を食べることできる。
そして、食後は、パチャランで締める。
これまで、パチャランが、どの様な飲み物かをを知らずにいた。
スピノサスモモの実を、蒸留して作っているのだそうだ。
強さは、25~30度。
スモモが原料のため、穀物系のようなパンチがなくて、スムーズに飲める。
度数も、強くもなく、弱くもなく、ダラダラ飲みたい酒飲みの好みに調度あっている。
腹いっぱいに肉を食べ、パチャランに酩酊して、マドリードのなが~い夜は、まだまだつづく。
